夏の桜 | 府中まちコム
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作成日 2012.09.02

この記事の分類 府中絵日記, 自然・動植物

夏の桜

府中町の桜の大木2012年9月2日(日)
 台風の影響か、ときおり猛烈な雷雨。日が射したのを見はからっておつかいに出たら、買物帰りらしい知らないおばさんに話しかけられた。白いスーパーのレジ袋にビールの缶が数本入っているのが透けて見える。エプロンの両ポケットからもビールの缶が顔を覗かせている。

 人なつこい笑顔で、
「この木は結婚記念に大国魂神社の境内で3本100円で買ったのよ」
 通るたびについつい見上げてしまう桜の大木。きょうもその前で立ち止まってしまったのを、どうやら見ていたらしい。
「でも1本は枯れちゃって。この木と、ほらあそこにも1本あるでしょ。2本残ったの。買ったときはこのくらいだったのよ」と、おばさんは持っていた杖を掲げて見せた。

「結婚したのは75年前だからねえ」
「とてもそんなお年には見えません。お若いですねえ」と私は言った。半ダースのビールをどこで買ってきたのか、杖があるとはいえ、ずいぶん軽そうにぶら下げている。それ、一人で飲むんですかと、聞きそうになった。

 おばさんは恥ずかしそうに口元を手で隠して、
「でも、ほら歯が抜けちゃって、歯医者にいってきたばかりなのよ」と陽気に笑った。
「結婚してここに移り住んだ頃は、あたり一面畑で、この通りなんか自転車と人がすれ違えるかどうかっていうくらい狭かったのよ。今じゃ、こんなに広いけどね」

 よそのお宅の木だしと思って今まで遠慮していたのを、写真を撮らせてほしいと頼んだら、奥に入れてくれた。
「咲いた頃に撮った方がいいわよ、ずっときれいよ。咲いたらまたいらっしゃいよ」
 花は咲いていないし、もうじき葉も落ちるのだろうが、晩夏の桜も案外捨てたものではないと思った。

(関口まり子)