鬼と女神 | 府中まちコム
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作成日 2015.02.23

この記事の分類 場所・施設, 府中絵日記

鬼と女神

150226落し物2015年2月23日(月)
 足を怪我してしばらく不自由な生活を強いられていた。まだふらつくが、何とか外出できそうなので、反対する家人を尻目に自転車で府中図書館に行くことにした。

 久しぶりの図書館で本を借りたら自転車の荷カゴが重くなったので、用心してクルマの少ない裏道をゆっくり帰ることにした。もう歩けないかも知れないと思っていたのに、ここまで回復できたといい気分で漕いでいるとバサッと音がした。振り返ると手帳が落ちていた。

 もしやとポケットを探ると、いっしょに入れた筈の財布がない。財布には現金はあまり入っていないのだが、免許証、診察券、パスモ、クレジットカードだけでなく、勤め先の鍵なども詰め込んであった。愕然とした。

 来た道を地面を見ながらずっと図書館まで辿り、係にも聞いたが財布はなかった。未練がましく同じ道を自転車を引いて歩いたが、やはり見つからない。「だから言ったでしょ」と目を吊り上げて憤る家人の顔が目に浮かんだ。

 とにかく警察に届けておこうと、甲州街道沿いの府中署に向かった。係の警官は忙しそうに書類を書いており、少し待つように指示された。ロビーの椅子に座って呆然としていると呼ばれたので、尋ねられるまま名前を告げると、書き物をしていた警官が「ええっ、田中さん」と声を上げた。
「今、遺失物の書類を書いているんだけど、あなたの財布か」

 これは奇跡だ。拾ってくれた人は若い女性で、お礼は不要と名も名乗らなかったという。救いの女神が現れた。そのことを家で話すかどうか、迷いながら帰った。

(田中則夫)