時の流れゆくままに・5 | 府中まちコム
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作成日 2021.07.13

この記事の分類 府中絵日記, 随想

時の流れゆくままに・5

2021年7月13日(火)

先日久々に農工大周辺を歩いてみたのだが、40年近く前に大学南門そばの一隅に住み着き、長年その地で過ごした身としては懐かしいかぎりであった。当時の南門一帯には放し飼い状態の鶏が多数棲息しており、それらはすっかり野生化して勝手気ままな振舞いを見せていた。日暮れ時になると、その鶏たちは地上から大学構内の大木の下枝まで飛び上がり、そこからさらに高い枝へと飛び移る行為を繰り返し、身を守るに十分な高さに到達すると、そこで羽を休めながら翌朝まで眠りに就いたものである。

そして、明け方になると、樹上の雄鶏らは羽ばたきながら高らかな鳴き声を発し、それが一帯に響き渡って目覚まし代わりをも務めてくれていた。そのあと鶏たちは宙を羽ばたきながら、一気呵成に高所から地上へと降り立ったものである。雄鶏も雌鶏も気性は荒く、猫などが近づこうものなら集団で攻撃を加えていた。近隣の家の庭にも出入りする彼らは住民からも親しまれており、突如、親鳥が、秘密の隠れ場で育てたらしい雛たちを連れて現れることもあった。 ただ、残念なことに、糞公害など衛生問題が取り沙汰されるようになり、大学側の判断で鶏たちはみな鶏舎に強制収容されてしまい、そんな風情ある光景は姿を消すことになった。あの鶏たちの末路は人間の胃袋の中だったのだろうか…。

(本田成親)