時の流れゆくままに・33 | 府中まちコム
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作成日 2023.11.04

この記事の分類 府中絵日記

時の流れゆくままに・33

早朝、近くの公園を散歩していたら面白い光景に遭遇した。この公園には多摩川から汲み上げた綺麗な水が流れ込む小さな池があるのだが、そこには、折々多摩川河畔からつがいのカル鴨が飛来し、気ままに湖面を泳ぎ回る姿が見かけられる。近所の人々が気軽に餌を与えることもあって、鴨たちは結構人懐っこく、池のそばのベンチに腰掛けていたりすると、池から上がってトコトコと歩きながら足元まで近づいてきたりもする。ただ、そんなカル鴨の行動そのものは、あちこちでよく目にする光景なので、そうそう珍しいことではない。

またいっぽう、その公園には、灰色の毛をした可愛らしい兎を抱いた中年の男性が、爽やかな笑みを湛えながらよく朝の散歩にやってくる。見るからに穏やかそうなその男性が胸に抱いた兎を公園内の池周辺の芝生や草叢のなかに放してやると、しばし自由の身となった兎のほうは、近くの草々を軽く食んだり、雑草の中に身を隠すようにして潜り込んだりしながら、見るからに楽しそうに動きまわる。

飼い主のほうはそんな兎の姿を遠目に眺めながら、自らも深く心を癒されているような様子を見せる。たまにその男性が胸に抱える兎の顔や体をそっと撫でさせてもらうこともあるのだが、とても人懐っこくて、通りすがりの人間に対しても警戒感を露わにするようなことはない。こちらの光景のほうも、それなりに珍しくはあるのだが、だからと言ってそうそう驚くほどのものではない。

ところが、ある朝のこと、そんな鴨と兎とが繰り広げる奇妙な光景に目を奪われることになったのだ。なんと、2羽のカル鴨と兎とが公園の一角にあるこんもりとした草叢の中で互いに戯れ合っていたのである。ぐるぐると同じ場所を回るようにしながら、交互に追いかけ合ったり、そっと顔と顔とを近づけ会ったりしている様子は実に印象的なものであった。相手が犬や猫だったらカル鴨らも近づきなんかしないのだろうが、たぶん兎に対してなら直感的に気を許せるところがあるのだろう。それにしても、鴨と兎とが織り成すそんな珍しい情景に出遇えたのは望外のことだったと言うしかない。

(本田成親)