時の流れゆくままに・17 | 府中まちコム
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作成日 2022.07.12

この記事の分類 府中絵日記, 随想

時の流れゆくままに・17

2022年7月12日(火)

富士山麓南東部に位置する富士サファリパークを30年ぶりくらいに訪ねてみた。息子、娘、そして孫たちも一緒だった。入園ゲートそばの駐車場に入り一時下車しようとすると、どこからともなく、ドーン、ドーンという遠雷のような音が一定間隔をおいて響いてくるではないか。どうやらそれは、隣接する自衛隊東富士演習場での射撃訓練の砲声で、サファリパークの職員や園内の動物らにとってはごく日常的な物音でもあるらしかった。

昔とは違って園内は格段に整備が進み、歩速ほどのスピードで車を進めたり、随時停車したりしながら心ゆくまで野生動物の生態を楽しむことができた。広大な園内は、クマゾーン、トラゾーン、ライオンゾーン、チータゾーン、サイゾーンなどをはじめとする様々なゾーンに仕切られており、車の脇を悠然と歩く猛獣や大型草食獣の姿に皆で歓声を上げもした。

一頭のキリンがフロントガラス越しに我々の顔を覗き込みつつ車の前面に立ちはだかった時などは、そのまま5分間ほどまったく動きが取れなかったが、その分、キリンの愛嬌ある表情や独特の文様を構成する体毛の1本1本までをも詳細に観察することができた。

箸にも棒にも掛からない(やから)だと言いたげに横目でこちらを睨みながら、ノッシノッシと巨大なクマやライオンが車の真ん前を歩く様を見られるのは、このパークならではのことだろう。大きな牙を直立させたサイの顔を真正面から目にした際は、その迫力に驚愕もした。

だが、諸々の野獣の生態を満喫しながらパーク内を一巡するうちに、昔伝え聞いた逸話が突然脳裏に甦った。米国のある動物園の出口近くには「世界一獰猛な動物」と記された檻があり、中を覗くと奥に大きな鏡があって観客の姿が映るようになっていたという。見事なジョークとして済ませたいところだが、そのジョークは事実そのものだと痛感もさせられた。

(本田成親)