随想 | 府中まちコム
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随想

時の流れゆくままに・44

「天使の辞典」草稿より抜粋 (死)苦渋に満ちた人生の旅路において出遭う最悪の悲劇や最大の恐怖から逃れるために、個々の人間に許される唯一かつ決定的な解決手段。自分の死期を公に予言していた占星術師ジロラモ・カルダノは、当日、…

時の流れゆくままに・43

「天使の辞典」草稿より抜粋 (恋人)著名な評論家だった吉本隆明が生み出した概念に「対幻想」というものがある。異なる一対の存在が出逢うことによって互いの心中に紡ぎ出される一時的な美しい共同幻影のことで、恋人とはそんな幻覚を…

時の流れゆくままに・42

「天使の辞典」草稿より抜粋 (靴)ペアで人間の足先に張り付くお前らが登場し、この現代社会を席捲するようになったおかげで、古来この尊い大地から委ね続けられてきた特別な感触を、日常的に体感できる者はほとんどいなくなってしまっ…

時の流れゆくままに・41

「天使の辞典」草稿より抜粋 (怪獣)人間の姿を纏った怪獣は政界や経済界に我が物顔で跋扈(ばっこ)していることが多い。「選挙運動」などと称する一種の怪しげな自己演出用の舞台装置を利用して、にこやかな表情で「皆様のお心にどこ…

時の流れゆくままに・39

「天使の辞典」草稿より抜粋 (ウイルス)地球上にあって偉そうに振舞う人間どもの傲慢さを諌めるために、折々大自然から遣わされる隠れた使者であり、人間に憑依(ひょうい)しその命を奪うことをも厭わない。一個体としては短命である…

時の流れゆくままに・38

明治期の海外名著のひとつに、米国の作家、アンブローズ・ビアスの「悪魔の辞典」という作品がある。あの大文豪、芥川龍之介も原書でそれを愛読したというほどに著名な作品ゆえ、辛辣な風刺の数々に溢れるその内容については、今更私が述…

時の流れゆくままに・37

去る2月5日の午後から、関東一帯は久々の大雪に見舞われた。夜になると近隣の木立や家々の屋根はすっかり白銀のベールに包まれ、周辺の道路は一面雪の絨毯に覆われた。老いた身であることを思うと、普通ならそのままじっと家に籠って、…