時の流れゆくままに・24 | 府中まちコム
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作成日 2023.02.02

この記事の分類 府中絵日記, 随想

時の流れゆくままに・24

2023年2月2日(木)

既に傘寿を迎えた老身のゆえに、スマートフォーンの性能に対するこだわりは殆どない。通話やメールなど、ごく基本的な通信機能が備わっておれば十分だと考えているから、使用している機種もごく安価な代物で、その機能のいずれをとっても特別驚くようなものはない。一昔前は先駆的IT通信技術の普及促進に関わっていた身にもかかわらず、今はもう周回遅れのアンチスマートなスマホ環境に甘んじているようなわけなのだ(苦笑)。

だが、先日のこと、昔の教え子で、現在人工光合成の先端研究に携わる大学教授と二人で一泊旅行をした際、彼が紹介してくれた最新のiPhoneの備え持つ写真撮影機能には驚かざるをえなかった。夜遅く高台にある宿のベランダに立った彼は、iPhoneを取り出すと、眼前に広がる真っ暗な空間に向かって映像撮影用のシャッターを切り始めたのだった。

あちこちに微かな光こそ遠望されるものの、人間の視力では殆ど何も識別できそうにないほどの闇に包まれた光景を写してどうするのだろうと思いながら、しばし私はその様子を見守っていた。すると写真を撮り終えた彼は、私のほうに近づいてきて、「最近のiPhoneの性能は凄いんですよ」と言いながら、撮り終えた写真を得意げに見せてくれたのだった。

何とその映像は、まだ十分に視界の利く残照時の景観かと紛うばかりのもので、周辺の樹林の詳細な様子や、その向こうに点在する民家の様子などをはっきりと識別することができたのである。さらに驚嘆すべきは、その高台からかなりの距離にある海洋一帯の光景と、そこを行き交う数隻の船影までがくっきりと映り浮かんでいることだった。

撮影後に特殊な機能による自動映像加工処理がなされたりはするらしいのだが、それが暗闇時の空間を写したものだとはとても信じ難いような出来栄えの映像だった。翌朝あらためてテラスから眼下の風景を眺め確認してみたのだが、そこに広がるのは昨夜彼が闇の中で写した映像そのままのものであった。人間の眼では知覚できない諸々の微光を捉える技術がここまで進んできたことにも感嘆したが、その一方で、合成フェイク画像作成にも繋がる映像技術の進展ぶりに、ある種の脅威や懸念を覚えたりもした次第だった。

(本田成親)