物語の魔力に取り憑かれる - 『落下の王国』 | 府中まちコム
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作成日 2025.12.14

この記事の分類 府中絵日記, 映画・演劇・TV・ラジオ

物語の魔力に取り憑かれる - 『落下の王国』

2025年12月13日(土)

2008年の公開時にはあまり注目されなかった異色の映画『落下の王国』をTOHOシネマズ府中で観る。

昔々、ロサンジェルスのとある病院。オレンジ摘みの作業中に木から落ち、腕を骨折して入院中の5歳の女児が知り合った相手は、映画撮影中の事故で大怪我をしたスタントマン。

彼は再起不能の不安や失恋の痛手から自殺願望にとらわれ、女児に薬剤室から薬を盗んで来させようと企み、映画を見たことがないという彼女の気を引くため、悪に立ち向かう勇者達の冒険物語を語り始める。

物語は彼女の疑問や抗議に応じて矛盾そっちのけで展開していく。彼女の脳内に広がる「映画」には、病院の職員や出入りの氷屋などが勇士や悪漢など様々な役柄で出てくるし、配役も入れ替わったりする。語り手が俳優業なので、昔の名画で見たことがあるようなシーンもパッパと出てくる。はじめはナニコレと思っていたが、いつの間にか物語の中に引きずり込まれた。

物語の進行に沿って少女の成長と青年の心情の変化を細やかに描くこの映画は一見幸福な結末を迎えるが、先に退院した彼女は彼のその後を知らない。数々の無声映画を見て活躍を知ったと語るが、彼が実際に出演しているかは定かではない。切ない余韻が残った。

(関口まり子)