『東京骨灰紀行』(小沢信男著)を読む | 府中まちコム
府中まちコム

この記事について

作成日 2013.03.03

この記事の分類 府中絵日記,

『東京骨灰紀行』(小沢信男著)を読む

多磨霊園の合葬墓地

多磨霊園の合葬墓

2013年3月3日(日)
  『東京骨灰紀行』は両国の回向院を起点に千住や新宿など、東京各地の墓や供養塔を訪ね歩く小旅行記だ。と言っても文豪やスターの墓をガイドブック風に案内するわけではない。

 墓碑に刻まれた文字を読み取り、夥しい数の資料にあたり、史実を拾い出し、東京の地面の下に埋まっている夥しい数の骨と灰の来歴を明らかにしていく。

 江戸から現代に至るまで話題に事欠かない都心地域に比べ、人里離れた郊外の林野であったろう府中にはめぼしい題材は少なかろうと思ったが、著者の目は鋭い。

 多磨霊園を訪れ、無縁の遺骨を集めた合葬墓の卒塔婆や石碑に残された数字を一けた台まで克明にメモし、計算して、その骨と灰がどこからどういう経緯でここに集められたかを探偵のように推理していく。

 軽妙な語り口、ドラマチックなエピソードの数々につられて読み進む。だが、最終章を読み終えて本を閉じた瞬間に、厳粛な気持ちになっている自分に気づく。

 死ぬとはどういうことなのか、この世に残って生きていくということはどういうことなのかを思いめぐらさずにいられない。

ちくま文庫
『東京骨灰紀行』小沢信男著

(関口まり子)