時の流れゆくままに・6 | 府中まちコム
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作成日 2021.08.13

この記事の分類 府中絵日記, 随想

時の流れゆくままに・6

2021年8月13日(金)

高齢者の世界入りした今となっては、夏の真昼の直射日光の猛威には耐え難い。中学生時代まで、熾烈そのものの陽光の降り注ぐ南国の離島において、全身真っ黒に日焼けしながら育ったこの身にしてもそんな有様なのだ。

大学時代の夏休み、都会育ちの友人を伴いその島に1ヶ月余滞在し、二人一緒に黒々と日焼けした半裸体姿の写真を撮ったことがある。東京に戻ってからのこと、偶々その折の写真を目にした後輩から「これって現地人ですか」と真顔で訊ねられ、「そうなんだよ、最近東京に逃げてきたらしいけどね」と苦笑しながら、そんなふざけた応答をしたものである。

上京して既に60年、すっかり都会の環境に同化し、昔日の野性的感覚は見る影もなく衰えてしまったが、それでもたまには忘れかけた感性が心奥から甦り、せめて昔日の如き漆黒の闇に身を委ね、魂を磨き直したらどうだと囁きかけてくる。そんな折には忽ち不良老年暴走族と化し 深夜車で青木ヶ原などへと出向いて皆が怖れるあの深林を独り平然と歩き回る。

樹間から仰ぎ見る星々の煌きは感動的だし、身を包む闇の衣が喪失しかけた五感を呼び覚ましてもくれる。燦々たる陽光とは対照的な深い闇が平気なのも離島育ちの所為なのだろう。深夜の青木ヶ原探訪を望む方がおありなら、この老体が案内役を務めてもよい(笑)。

(本田成親)