時の流れゆくままに・19 | 府中まちコム
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作成日 2022.09.11

この記事の分類 府中絵日記, 随想

時の流れゆくままに・19

まだ空が暗い午前4時頃、多摩川に架かる関戸橋の中程から東の空を眺めやっていた。早朝散歩の時刻をいつもより1時間も早めて橋上に立ったのは、それなりの意図があったからである。この日の月齢は25日、完全に月が見えなくなる新月まであと3日ほどだった。

 日没後の西空に鎌の穂先を想わせるような鋭く尖った三日月が浮かび、そのすぐ近くで金星、すなわち宵の明星が煌々と輝いている光景は、誰にとってもお馴染みのものである。しかし「逆三日月」とでも称すべき、それとは真反対の光景を目にしたいと思ったら、月齢を算定し、日の出の1~2時間前の早朝に東寄りの空を仰ぎ見るようにしなければならない。

 意図的に行動しないとなかなか出遇うことのできないそんな見事な「逆三日月」の光景を、私は独り橋上に立って堪能していたのである。夕刻の西空に見る三日月と形は同じだが鎌の刃が逆向きの月影が、夜明け前の東の空に美しく輝いており、その少し右手では、たまたま明けの明星となっていた金星が、夜明けが間近いことをこの身に囁きかけてきていた。

 関戸橋を渡り切り、多摩市側の土手上を上流に向かって歩くうちに、東の空一帯は急速に赤みを増して明るくなり、それに煽られるようにして逆三日月はその輝きを失い、ほどなく姿を消した。明けの明星もまたその後を追うようにして天空に融け込むように消え失せた。

 ところがなんと、その先に想いがけない展開が待っていたのである。上流の四谷橋を府中側へと渡ろうとした時のこと、東の空に昇ってきた赤く(まばゆ)い朝日に照らされて、西空に大きく浮かぶ雲の表層に帯状の綺麗な虹が突如出現したのである。雲を構成する水滴や氷の粒がプリズム効果を起こした結果なのだろうが、まさにそれは息を呑むような光景だった。

 早起きは三文の得とも言われるが、逆三日月、明けの明星、真紅の朝日、そして見事な虹の帯までを楽しめたことを思うと、「早起きは千円の得」くらいには評価してもよさそうだ。

(本田成親)