時の流れゆくままに・39 | 府中まちコム
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作成日 2024.05.04

この記事の分類 府中絵日記, 随想

時の流れゆくままに・39

「天使の辞典」草稿より抜粋

(ウイルス)
地球上にあって偉そうに振舞う人間どもの傲慢さを諌めるために、折々大自然から遣わされる隠れた使者であり、人間に憑依(ひょうい)しその命を奪うことをも厭わない。一個体としては短命であるが、凄まじい繁殖力や拡散力、さらには強大な殺傷力を保有しており、その特殊能力をもって自己の猛威をアピールし、人間どもを大きな恐怖に陥れる。先年来人間界を脅かし続けている新型コロナウイルスなるものなどはその象徴的存在である。

有機的物質と原初的生命体との中間的位置にあるこの超微細な存在は、細菌類を含む他の生命体の細胞内に寄生し、そこのタンパク質などを分解再構成することによって自己複製を果たしている。ただ、現在のところ、地上の生命体のなかでこの存在とそれがもたらす脅威に気づいているのは人間どもだけのようである。ワクチンなど、そんな人間どもの生み出す対応策を嘲笑うがごとく、絶え間なく進化変容を遂げるこの存在には、人間の浅知恵などを超越した、大宇宙の維持展開に欠かせない特異なシステムが秘められているようなので話はなんとも厄介なのだ。人間どもはウイルスと聞くと悪玉だと早合点しがちなのだが、実は生命体の進化に貢献する善玉的存在のほうが多いというのだから話は一筋縄ではいかないのである。

なおまた困ったことには、人間界の一部には贋ウイルスが存在している。昨今メディアで取り上げられている虚言コロコロウイルスや忖度ペコペコウイルスなどはその代表事例にほかならない。それら二種類の贋ウイルスは近年の政財界に蔓延し猛威を振るっては国民生活に損害をもたらしている。しかも、これらのウイルスは、感染者そのものには優越感や満足感を与え、それなりの利益を保証してくれるという特性を有してもいる。虚言コロコロウイルスの発生源は自尊心の異常に強いある国の元総理大臣だったとかで、その恰好だけの政治理念と政治政策を何の躊躇いもなくコロコロと変え、平然として己の権威を守ることのみに執着するのが典型的な病状であったという。贋ウイルスにしてはその感染力も相当なもので、お取り巻きの閣僚衆などはたちまちその餌食になってしまっていたらしい。

一方、忖度ペコペコウイルスは、前述した総理を支えるある省庁の官僚らの間に自然発生し、あっというまに他の省庁の官僚らにも感染したようだ。このウイルスは、その感染者らに自らの上司にあたる人物の願望を素早く察知させ、その実現のために彼らを奔走させるという病状をもたたすのが特徴のようである。諸省庁の官僚らがこのウイルスに感染した場合には、無条件で彼らが尽くすのは時の総理ということになる。このウイルス感染者らが、その病状と引き換えに大きな対価を得ることは言うまでもない。

それらのウイルスが贋ウイルスであることの根拠は、当世流行のコロナウイルスのようにれっきとした実態が存在していないこと、さらには、感染者ではない人間のほうが諸々の損害を被ってしまうことである。このウイルスを抑えるための唯一の抗体は「理性」という名の極めて特殊な精神構造体だが、この抗体を持つ人間が甚だ少ないのは人類史に鑑みるなら一目瞭然のようである。「理性」という抗体を生み出すワクチンでも創出できればよいのだが、現実的にはそれは極めて困難である。

(本田成親)